第82回希土類討論会 参加報告
2023年6月5日
目的: 希土類分野におけるガラス利用の最新技術情報を調査した。
討論会の概要
本講演会は、年二回開催される希土類学会主催の討論会である。本討論会では合計87件の発表があったが、分野別でみると、発光(LED,レーザー含む)が22件で一番多く、蛍光:11件、アップコンバージョン:2件、磁石:9件、電池:6件、電気特性:5件、色原料:3件、触媒:8件、シンチレータ:8件、超電導:4件、その他:9件となり、材料別では、有機材料で21件、無機材料で61件、ガラスが4件であった。ガラスは全てシンチレータに関するものだった。そのうち3件について報告する。
希土類元素を添加した酸化物ガラスによる中性子測定 (東北大院)
放射線照射により蓄積されたエネルギーを加熱により光として放出することを熱蛍光というが、この特性は線量計に利用されている。熱蛍光材料のなかで、ガラスは化学的・熱的安定性に優れ、廉価かつ大量生産が可能という長所があるが、結晶に比べて発光量が低いという課題もある。また、ガラス熱蛍光材料はβ線、γ線、およびx線用であり、中性子用に設計されたものはほとんどないことから、中性子検出用熱蛍光ガラス材料の開発をすすめている。組成は、発光中心にTb3+、中性子核反応に10B、そして、ガラス母体として、B2O3-Na2O-CaO-P2O5を選んだ。溶融急冷法により作成した試料を測定したところ、105~1011neutrons/cm2での中性子フルエンス計測を達成し、実効的な中性子検出機能をもつことが確認できた。
発光中心としてCe3+を用いたリン酸塩ガラスシンチレータにおける エネルギー移動効率に関する考察 (東北大院)
放射線を可視光に変える蛍光体をシンチレータと呼ぶが、医療や工業、セキュリティなど幅広い分野で利用されている。シンチレータには高いシンチレーション特性が求められるが、実用化されている多くの材料は無機結晶である。しかし、無機結晶は製造プロセスの難易度から大量生産にむかないという欠点がある。一方、ガラスはその作りやすさから大量生産に向くが、現状ではガラスホストから発光中心へのエネルギー移動効率の低さ故の発光量の低さという課題がある。
シンチレータの発光量は、電子正孔対の数、エネルギー移動効率、量子収率の積であることから、エネルギー移動効率の観点からCsPO3、量子収率の観点からBr–を加えた組成である、Al(PO3)3-CsPO3-CsBr-CeBr3ガラスを作製した。このガラスは2,700photons/MeVに達する高発光量を実現した。今回はアルカリ金属による差によるエネルギー移動効率の差異をみるために、CsをK,Rbに置換したガラスで確認したところ、Csが最大のエネルギー移動効率を持つことが分かった。
Eu2+の発行を利用したガラスシンチレータの開発 (奈良先端科学技術大学院大学)
Eu2+は比較的短い蛍光寿命をもつので、シンチレータの発光中心元素に適した希土類である。シンチレータは一般的に、大きい実行原子番号、高い発光量、短い蛍光寿命などの特性が求められる。一方、ガラスが作りやすさからシンチレータとして期待されながら実用化が少ないのは、ガラスを形成する骨格となる網目形成酸化物が軽元素であることから、必然的に実行原子番号が小さくなることが大きな要因の一つである。そこで研究室ではHfO2-Al2O3-SiO2系ガラスに注目し、組成の最適化を図ってきた。また、ガラス中ではEuはEu3+で存在しやすいことも課題であるが、本組成系ではEu2+に起因する高強度の発光を確認できた。本組成のガラスは融点が2,000℃付近にあり、通常の溶融冷却法では作成できないことから、FZ(フローティングゾーン)溶融急冷法にて調整した。FZ炉は3,000℃まで上げることができる。得られたEu2+含有ガラスの発光量は630photons/MeVであった。
感想
ガラスと希土類の関係は古く、日立製作所の初期のカラーテレビは、ブラウン管の蛍光材料としてテルビウムやユウロピウムを使用したことから、キドカラ―という名称を付けていた。キドカラ―は日本初の民間飛行船「キドカラ―号」で全国のプロモーションを行ったほか、TVCMでも盛んに放映されていた。また、色ガラスの発色材料として、エルビウムやセリウム、光学ガラスの原料としてランタン、その研磨剤としてセリウムが使用されている。ガラス製シンチレータも実用化にこぎつけてほしいと思った。
以上