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日本セラミックス協会 第36回秋季シンポジウム参加報告

日本セラミックス協会主催の秋季シンポジウムに参加した。本シンポジウムではガラスはランダム系材料という分類になっていた。ガラス関係を中心に報告する。

2J14 非酸化物のガラス形成。構造と光機能

京都工芸繊維大 角野広平氏

 溶融急冷法でガラス化する非酸化物系では、17族元素で構成されるハロゲン化物と、酸素を除く16族元素で構成されるカルコゲン化物系が知られている。これらは低フォノンエネルギー(イオン館の結合の振動エネルギーが小さい)を持つが、これにより赤外波長の透過を有する光機能を持つ(酸化物>フッ化物>カルコゲン化物>ハロゲン化物)。また、ハロゲン化物の中でも、質量の大きさでF>Cl>Br>Iの順にフォノンエネルギーが小さくなる。ガラス化した際の長波長側の吸収端は、ヨウ化物:~40µm、臭化物:~20µm、塩化物:15µm、となり、カルコゲン化物では、テルル化物:~20µm、セレン化物:~15µ、硫化物:~10µmとなる。ハロゲン化物ガラスはイオン結合性が強く、カルコゲン化物ガラスは共有結合性が強いという特徴もある。

 1974年にZrF4系ガラスが低損失光ファイバー用としてハロゲン化物ガラスとして最初に発表された。その後、種々のハロゲン化物のガラス化が発見されたが、ガラス構造としては、ZnCl2系に代表される共有結合的な4配位をもつランダムネットワーク(Zachariasen型)をもつものと、ZrF4-BaF2系ガラスに代表される8配位を持つランダムパッキング(非Zachariasen型)を持つものに分類される。

 カルコゲン化物ガラスでは、硫化物やセレン化物が多く研究されてきたが、重たい陽イオンであるガリウムとの化合物が注目される。具体的にはGeTe4-GaTe3系やGeS2-Sb2S3-Ga2S3系である。Ga2S3はGe系より吸収端が長波長側に伸びるが、ハロゲン化Csを加えるとさらに長波長側に伸びる。また、カルコゲン化物ガラスは希土類イオンドープ時に発光効率が良いという特徴もある。

3J14 無色透明ゼロ熱膨張結晶化ガラス

日本電気硝子 

 温度変化に対して体積が変化しないゼロ熱膨張材料として、Li2O-Al2O3-SiO2系結晶化ガラスが使用されている。従来の結晶化ガラスは茶褐色で透明化は難しいとされていたが、日本電気硝子は無色化に成功したので、紹介する。結晶化ガラスとは一旦ガラス化したのちに、熱処理で一部を結晶化させてガラス・結晶の混合化合物にしたものである。一般的に結晶化は二つのタイプがあり、ガラスの表面から結晶化する表面結晶と、ガラス内部から結晶化する体積結晶である。Li2O-Al2O3-SiO2系では体積結晶化を促進するために、結晶核としてZrO2、TiO2をドープしている。一方、茶褐色は、TiO2とFe2O3からなるイルメナイト(Fe-O-Ti)が原因であることが分かった。Fe2O3は0.01~0.1wt%、TiO2は1.5~3.5wt%含有している。Fe2O3は原料中に含まれる不純物で根絶することは難しい。TiO2を添加しないと表面結晶が起こってしまうので、代替え材料を探したところ、ZrO2とSnO2の組み合わせが良いことが分かった。これらを添加して作成した結晶化ガラスは無色透明で「Cerapure」と命名して発表した。従来のものと比較すると、色以外の物性はほぼ同じである。

2H02 沈殿法を利用した非晶質アルミナの合成

工学院大学 

 ガラス組成においてアルミナは、網目形成物質と網目修飾物質の間の中間酸化物として分類されていて、通常の溶融急冷法では単独でガラスにならない。しかし、電気化学的酸化や気相法ではガラス転移が示すことがわかってきているが、本研究室では新たな水溶液の沈殿反応を利用した非晶質アルミナの合成を検討した。0.05mol Al(NO3)3・9H2Oを加熱し42℃で 0.6mol NH4HCO3を滴下、攪拌して生じた沈殿物を吸引ろ過・水洗浄・真空乾燥したのちに300~1250℃で加熱した。300℃~600℃で加熱したのもはXRD測定で非晶質であることが確認できた。

1PJ06pm レーザー照射による急加熱・冷却が分相ホウケイ酸塩ガラスの均質化に及ぼす影響

東京工業大学

 熱処理でスピノーダル分相を起こすナトリウムホウケイ酸ガラスは、エッチングでホウ酸リッチ層を除去することでナノメートルサイズの連続開気孔をもつ多孔質シリカガラスを作製することが出来る。この多孔質ガラスは大きな比表面積とシリカガラスの持つ紫外~可視光の高い透過率から光化学反応の素材として期待されている。その基板組織をナノレベルでコントロールできれば光流路に応用できると考え、レーザー局所加熱を行った。一般的なレーザーによるガラス加工では炭酸ガスレーザー(10.2µm)を使用するが、ナノレベルの制御には不向きなので、YAGレーザー(1064nm)を用い、ガラス中に1064nmを吸収するカチオン(Ni)を添加することで、局所的な加熱を行った。レーザーの出力を変えながら加工を行ったが、比較的低出力の加熱で非常にクリティカルな均質ガラス領域と分相領域の境界が得られた。

2H01 高温圧縮における合成条件がSiO2ガラスの構造・物性に与える影響

東京理科大学 

 Taをドープした光学ガラスは高屈折率・低分散が得られるが、レアメタルの供給不安により他の光学材料が求められている。そこで高温圧縮SiO2に着目し開発を進めた。SiO2はそのまま高温圧縮すると表面の不純物が核となり結晶化が始まるのでフッ酸で洗浄したのちに、最大1500℃、9.4GPaまでの種々の温度と圧力で加工した。結果、通常は2.1g/cm3の屈折率が、1300℃/7.7GPaの条件下で2.82g/cm3が得られた。

2H04 R2O3-Ga2O3-Al2O3系ガラス(Rは希土類元素)の構造と物性

弘前大学

 R2O3は網目修飾酸化物、Ga2O3、Al2O3は中間酸化物に分類されるので、それらの組み合わせではガラス化させることは難しいが、R2O3-Ga2O3並びにR2O3-Al2O3の二元系については無容器法を用いてガラス化できることがわかっている。そこで、GaにAlを置換したR2O3-Ga2O3-Al2O3三元系を無容器法でのガラス化を試みた。無容器法は、混合した原料粉末を加圧成形したペレットを空気中で1000℃、12時間焼結したのち、O2ガスを用いたガス浮遊炉にて無容器溶融・凝固させた。ガラス化はXRD測定で確認した。また、ガラスの構造解析は、ラマン散乱、NMR、XAFSによって行った。

3J19 体アルカリホウケイ酸塩ガラスに含まれる微量添加遷移金属イオンが分相挙動に与える影響

東京工業大 

 Na2O-B2O3-SiO2系(NBS)ガラスの分相挙動は多くの研究がなされており、母材としても多用されているが、第4成分の添加による分相挙動についてはよくわかっていない。また、遷移金属イオンは環境に応じて価数/配位数を変化するが、分相についての影響は統計的には行われていない。そこで、遷移金属イオンが分相挙動に及ぼす影響を調査した。遷移金属イオンは、Ni2+、Cu2+、Mg2+を選んだ(イオン半径はほぼ同じ)。X線小角散乱(SAXS)で添加したガラスとそれらを熱処理したものを測定したところ、熱処理前はすべて波長約60nm周期をもつスピノーダル分相の形成を表した。熱処理を行ったものは800℃以上から散乱強度が低下して均質化が開始したが、Ni2+だけは800℃以上の熱処理でバイノーダル分相の形成を示す強度増加がみられた。外割で添加したR2Oの濃度は0.8mol。NiやCuのX線吸収端の極近傍のXAFSから、熱処理温度による価数や配位数の違いが確認できた。これらのことより、NBSガラスへの添加剤として第4成分は、添加物イオンのイオン半径や価数に加えて、酸素配位数や局所構造も影響することが分かった。

感想

 今回のシンポジウムでは、溶融急冷法によるガラス(一般的なガラス)だけでなく、多様なガラスの製法が発表されていた。低エネルギー消費のガラス製造方法の実現を模索していると感じた。一方、日本電気硝子様の講演のように、酸化物ガラスにおいても新規開発の可能性があると感じた。以前はガラスの構造評価は非常に難しく、ガラス形成網目構造を基準に想像するしかなかったが、最近はSpring-8を使用した構造解析等により、今まで曖昧だったことがかなり明確になりつつあると思った。

開催日程 2023年9月6日~8日
参加人数 1名
場所 京都工芸繊維大学