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応用物理学会 第85回秋季学術講演会 報告 

    応用物理学会主催の秋季講演会に参加した。本講演会では、ガラスに関する発表が多数あったが、その中でパナソニックホールディングス社(敬称略以下同)とAGC社の講演について報告する。

    ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の開発

    パナソニックホールディングス株式会社 松井氏

     ペロブスカイト太陽電池は低温塗布で加工ができフレキシブルな基板を使えることから、低コスト・軽量・フレキシブル化により、これまで設置が困難な箇所への設置が期待されている。また、発電効率も先行する結晶シリコン太陽電池と同等の性能(約20%)まで向上していて、かつ、日本が技術的に先行している(ただし、既に中国の追い上げが激しく少し抜かされた感もある)。しかしながら、低温塗布工程に起因する耐久性の悪さ(剝がれやすい)と、有機材料による低寿命が未だ克服されていないので、いまだ実現化できていない。

     パナソニックは建材用ガラスにペロブスカイト太陽電池を使うことで、欠点を克服しながら、結晶シリコンには無い有利な特性を引き出せると考えて、実用化を目指している。まず、欠点の克服は、2枚のガラス板の間にペロブスカイト太陽電池をサンドイッチすることで、はがれやすいという耐久性の低さを克服した。2枚のガラスを使うことはペアガラスと言う名称で、建材用ガラスでは断熱性を高める用途で従来から販売されている。また、ペロブスカイト素材にも、一部無機材料を使うことで、太陽光による劣化を遅くした。また、結晶シリコンより有利な点は、塗布加工で施工できることから、低コストで大面積化が容易なことで、現在100x180cmのガラスに加工が、さらなる大型化も可能だ。また、塗布加工なので、表面の凹凸やうねりが大きい建材用ガラスにもインクジェットで直接加工できる。結晶シリコンの場合はウエハーサイズに規制されるので、大面積化による低コスト化が難しい。建材用ガラス(窓ガラス)に使用する為には、光の透過率が重要だが、透過率5%~50%まで、自由に調整ができる。当然50%になると発電効率は低下するが、実証実験では透過率50%はほとんど通常の素ガラスと使用感は変わらない。

     この技術が成功するかどうかは、まず結晶シリコンに対しては、技術的な差別化がどれだけアピールできるか、また、中国勢のペロブスカイトに対しては、パナソニックとして電設・建材・施工の部門をもつことによる国内でのビル施工の現場での囲い込みで実用化をいかには早くできるかによる。パナソニックでは2028年から量産を始める予定。

    コーポレート・トランスフォーメーションを支える生産技術

    AGC株式会社 倉田氏(専務取締役事業CTO技術本部長)

     製造業においてCXは必須である。従来とは利益構造が変わってきた。2000年の頃から液晶基板ガラスが事業を引っ張ってきたが2015年には収益が上がらなくなり会社存続の危機に陥った。AGCは「ガラス技術が最大の強み」と自認していたが、それは単なる思い込みであった。

     そこでAGCの強みを再認識し、成長産業にAGCの強みを活かした素材を提供することに事業を再構築することにした。そこで登場したのがクロールアルカリに代表される化学品である。今では収益の柱となっている。事業ポートフォリオの考え方として特に「高い資本効率」と「高い炭素効率」に注力している。フロートガラス炉は炉内を1600℃以上にする必要があり、現在は主に天然ガスを燃料としているが、2050年のカーボンゼロに向けて、ハイブリッド炉を実現しようとしている。サンゴバン社と共同で、電気ブースターと燃焼炉のハイブリッド化、および燃料を天然ガスからアンモニアに変換する取り組みを試している。これはまさに生産技術者の仕事であるが、こればかりではない。

     新規事業を立ち上げて次の主力に育てていくことは、事業存続の中心であるが、AGCでは両利きの経営でこれを実現していくことにしている。両利きとは、コア事業とともに戦力事業をすすめていくという意味もあるが、新規開発においても、右利き(生産・基板技術をベースに既存の顧客に新しい価値商品を提供する)、左利き(現在の製品を新しい顧客に提供する)という両利きもある。それを同時に行うことで、新しい顧客に新しい製品を提供することができる。その成功例が、建築用板ガラスをベースに両利きの開発を進めることで、液晶用基板ガラスを提供し、またこれをベースに両利きをすすめて、現在の車載ディスプレイカバーガラスを提供することが出来た。その中心となる部署が生産技術であると感じている。

     生産技術はR&Dからプラントの企画から立上げ、そして生産と、事業の全てに渡って携わる部署である。いわゆるエンジニアリングチェーンとバリューチェーンのすべてに活動範囲がある。また、DX化も生産技術のしごとである。従来の新規工場の立上げは、生産開始が計画通りに進まないことがほとんどで、立上げ中に発生する様々なトラブルに対応することがほとんどであった。ゆえに納期だけでなく費用も計画より大幅に超過することが多かった。これを計画時に時間をかけて様々なシミュレーションを行うことで、結果的にスムーズな立上げができるようになることを目指している。トラブルを事前に止められるのは、原理・原則を理解している生産技術者だけである。現在AGCでは生産技術者自身がプログラムを組めるように二刀流の技術者を育成中である。人的資本経営が一番重要であると考えている。

    感想

     ガラスに関する技術や用途について、ガラス産業に携わっている当事者が一番詳しいと思うのは、間違いかもしれないと感じた。技術や用途だけでなく、会社間や人の繋がりも含めて、広い視野で自分たちがお客様や世間に通用するものは何か、ということを見つけだす必要があると強く思った。

                                                以上

    開催日程 2024年9月16日~20日
    参加人数 1名
    場所 朱鷺メッセ