IFPEX2021 特別講演
2021年10月19日
■ 概要
ビッグサイトで開催されたIFPEX2021特別講演を受講した。 IFPEXは、フルードパワー(油圧)、自動認識総合展、測定計測店、センサーエキスポ、総合試験機器展の展示会で、3日間の来場者数は19,3467(主催者発表)であった。
■ セミナー
米中対立時代におけるリスクマネジメント ~製造業の未来~
国際政治学者 三浦瑠麗 氏
最近は不確実性の世界と言われるが、不確実性とリスクは違う。不確実性とは、どうしたらよいかわからないということだが、リスクとは、対応すべきことである。
経済安全保障という単語が、自民党の総裁選で論じられて話題になった。ちょっと前までは口にするだけでオタク扱いだったが、今は大臣を置くようになった。その原因は中国の台頭である。
今、米国はエコノミック・ステイト・クラフト(経済安全保障とほぼ同意)を進めている。これは、従来の自由貿易主義で規制撤廃を進めてきたこととは逆の動きで、今は歴史の転換期かもしれない。
コロナの感染者を分母にした致死率を、他の感染症と比較してみると、インフルエンザとほぼ近い水準になっている。これからは、コロナ後の経済回復が見込まれるが、これを経済安全保障が阻害する可能性がある。
米中対立はコロナ、バイデンで、さらに深刻化している。米国は近年、経済安全保障の観点から、中国企業の締め出しや、中国人留学生の受け入れ厳格化などの政策を矢継ぎ早に施行してきた。しかし、その効果はとうと、例えば香港では、米国が香港の人権問題に対して香港政策法を停止したが、結果、中国企業がNY市場から香港市場に鞍替えしたこともあり、今年、香港市場は過去最高値を記録した。その香港市場には今でも西側のお金が流れている。米国が中国を締め出した結果、米国が損をし、中国は影響を受けていない状況だ。なので、日本が米国の言いなりになって中国を必要以上に敵視すると、損するかもしれない。
私は中国の意識調査を広範囲の年齢、学歴、収入を切り口に行ったが、若者、高学歴、高収入になればなるほど、日本が好きという傾向が分かった。なので、中国の経済発展は日本にとっても良いのではと思う。中国のTPP参加表明は、そういう中国自体の変化の現れかもしれない。
岸田政権がスタートしたが、過去の政権と比較すると変化の兆しが見える。甘利氏が今年5月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2021に向けた提言」によると、経済安全保障を進めるにあたって、(米国の言いなりではなく)プロアクティブに動くことを明記されている。この中身は正しいと感じる。新自由主義の修正に関しては、結局やれることは2つしかなく、1つ目は、野党の言うことをやる・・・これはリアリティとの痛み分けになる。2つ目が、政権を維持するために経済の上に政治を置くやりかた・・・これは中国共産党の考え方と同じになってしまう。
コロナ過で、世界中で社会問題の顕在化が起こっている。それにより、非主流派政党の台頭、反格差、反エスタブリッシュメント感情の爆発が起きる。先進国では、分配政策の需要が高まることと、中国との対立の2つの文脈で政策の転換が起こると予想される。
米国は引き続き内向きで、同盟国は負担共有を求められる。日本の安全保障も今後10年で大きく変化する。中国は対米リスクを減らす方向に進むので、EUとの貿易がさらに増加する。
中国進出企業へのアドバイスだが、今後甘利氏のリーダーシップ如何で中国進出企業を取り巻く状況が大きく変わる。今までの日本の経済発展は自由貿易と米国軍事力の保護によるものだが、今後はわからない。これから半年から1年は状況を注意深く観察すべきである。
■感想
はっきりとした「製造業の未来」への提言は無かった。中国は今後ある程度はオープンにならざるを得ず、逆に米国が閉鎖的になるので、日本は独自の考えを持つべきという話だった。しかし、近い将来、日本は米国につくのか中国につくのかの選択を迫られると感じた。