工業会活動報告

展示会講演会 参加・見学報告

nano tech 2019見学報告

    1.参加の背景
    17年前、NEDOのプロジェクトで、「全固体型リチウム二次電池固体電解質の量産技術開発」なるものに参加し、約3年間活動させていただいた。 硫化物系の電解質で、LiSとSiS2+αからなる混合物を用いて、それをガラス化することで電解質特性を得ようとするものであった。 まだまだLi二次電池そのものが世の中に普及しだして時間が浅く、その危険性が世間に 理解されだしたころであったが、「全固体型」とは海のものとも山のものともわからない時代であった。

    先般、このデバイスがNHK等でも取り上げられ、弊社で扱わさせていただいている実験用治具の受注も急に増えているのが現状である。 そこで、現在の技術進捗状況の確認とガラス業界でも取り上げられる可能性のあるものがないかを探索するために展示会で実施された「全固体電池最前線」なる特別シンポジウムを聞くため、 大阪硝子工業会の継1事業を活用させていただいた。

    2.シンポジウム内容
    1)テーマ ;超スマート社会を実現する全固体電池最前線
    2)講演者とテーマ
    ①「全固体電池に関わるナノテクノロジー」
      トヨタ自動車㈱基盤材料技術部  射場 英紀 部長
     ②酸化物系固体電解質を用いた全固体電池の作製
      首都大学東京大学院 都市環境学科  金村 聖志 教授
     ③「硫化物系リチウム超イオン導電体の開発と固体電池への応用」
      東京工業大学 菅野研究ユニット  鈴木 耕太 助教
     ④「全固体電池における界面と電池特性」
      物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点  高田 和典 拠点長

    3)講演内容とポイント
    ①トヨタ自動車ということで、「全固体電池」がいよいよ車に採用かと思っていたが、実用化はまだ遠いらしく、電解質から負極側へのイオン移動にまつわる基礎研究がメインであった。 負極としてカーボンを使用した例が挙げられ、カーボンの表面積結晶子の大きさの制約、入口の隙間が重要な要素になるとの報告。

    ②初めて聞くLLZO(リチウムランタンジンクオキサイト)を用いた系で、電池特性としてはまだ低いものであったが、特徴として、硫化物に比べLi金属の酸化作用を受けにくい酸化物であること、デバイスとしてシート化をテーマに揚げていること、界面にイオン電導性を示す液体を用いることが特徴で、シート化に取り組む企業情報はここから得られるかもしれない。

    ③17年前のプロジェクトは今回の鈴木氏が所属されている東工大 菅野研究室の教授である、菅野先生がプロジェクトリーダーを務められたものである。 そのころから同じ硫化物であるがガラスではなく結晶物を求められてきた。先般、マスコミに取り上げられるようになった背景は、この系に本来は不純物であるClを含んだこと寄るようであるが、今回はその点の説明はなかった。

    本研究室で作製されるデバイスが日本で最も優れた特性を残しており、電解質としてはLiSiCoNとLiGePS等が主流になりそうである。 問題はGe等のコストであり、結晶物の問題点はそのコストである点は変わりない。
    いずれにしても、安全な全固体電池を60℃はおろか100℃での動作特性が出せている点は、実用化に対して大きな進歩である点を再確認した。

    ④高田氏の前職は松下電池工業でありその時代から界面抵抗を研究されてきた方である。 今回、Liの挙動をシミュレーションに基づく動画で示されたことが印象的であった。

    また、Li7Ti5O12/Li4Ti5O12の積層構造にし、イオン電導度の小さな物質であってもその表面をLiNbO3等で修飾することで良好なイオン電導度示す例も見つかっており材料探索の方向性は示された時代になってきたと実感した。

    3.まとめ
    1)今回のシンポジウムではガラス化の具体的な案件報告はなかったが、その理由として ①ガラス作製に不可欠なSiS2の安価な合成方法(現在はアンプル中で合成される試薬ベースしかない)こと、 ②硫化物のがガラス化における扱いにくさがあげられる。
    2)結晶物での成果報告でも結晶子の大きさによる問題点、Liイオンの通り道の確保が 重要なポイントになるためSiS2の合成方法とそれを用いたガラス化技術にブレイクスルーがあればガラス質電解質は有効な材料となり得る。
    3)合わせてデバイスに関してはシート化がキーワード。

    以上。

    開催日程 2019年1月31日~2月1日
    参加人数 1名
    場所 東京ビックサイト